「南アは食の総合商社」だ。 どこかで聞いたことのある言い回しだが、2つの大洋に囲まれ、さまざまな農産物を育む気象条件に恵まれ、地形上、食料の供給地としても発展した南アは、まさにこの言葉通り、食道楽には堪えられない料理に溢れている。 たとえば、天然の良港に恵まれたケープタウンでシーフードで舌鼓を打たない手はない。ロブスター、イカ、エビのシーフードの定番はもとより、白身の海水魚キングクリップはクセがなく一度味わってみる価値がある。また、日本人が最も口にする魚の一つである鮭もケープ・サーモンとして食卓に上がり、食べ比べてみるのも楽しいものだ。日本のように刺身としてよりも炙って焼くのもよし、煮込んでもよしと南ア流の調理方法に任せ、“俎板の鯉”に徹するのがいいだろう。 特に、味付けは最初に入植したオランダ人が連れてきたマレーの料理人の影響がいまだ残っているようで、特色としてスパイスが活かされた料理が少なくない。同じ港町でもインド洋に面したダーバンはインドからの入植者が多かったため、今でも本場インドのカレーやサモサを味わえるレストランに不自由なく、お薦めは海を臨むホテル『Southern Sun Elangeni』内にあるインド料理店だ。本場インド仕込みのさまざまなカレーに出会えるはずだ。またシーフードならば、レストラン『AQUA』が日本人の口に合った料理をサーブしてくれる。
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<郷に入れば郷に従え> 南アの食文化の特色は、行く町々で個性に溢れていることだ。この点、実に日本とよく似ている。たとえば、江戸っ子はそばを音をたてながら旨そうに啜れば、四国讃岐の人たちはコシのあるうどんをのど越しで楽しむ。道産子ならラーメンにはうるさいだろうし、麺一つとっても狭い日本列島ながらこうも嗜好が多彩である。 南アの場合、港町が立地条件を活かしたシーフードならば、内陸に入った大都市ヨハネスブルグは肉料理で対抗だ。伝統的な肉を使ったアフリカ料理の中には、我々日本人に馴染みの薄いワニや鹿の一種スプリングボックなど野生動物の肉を食材にしたものが豊富である。大胆にかぶりつけば南アフリカ人と化し、気持ちも大きくなる。「郷に入れば郷に従え」で、食わず嫌いにならず是非とも“チャレンジ”してほしい。食を知ればその国の歴史を知ることでもあり、さらに旅を楽しくさせてもくれるからである。 また人口320万人を誇るヨハネスブルグでは、南ア最大都市としての重責か、アフリカ各地の郷土料理を味わえるだけでなく、世界各国の料理も楽しめる。長期滞在となればラーメンも恋しくなるだろうが、大丈夫だ。 スポーツジムやカフェがひしめく洒落たションピング街、デザイン・クォーターにある『キッチン・バー』はこの名の通り、店内は厨房が料理ごとに長屋のように連なり、まさに“キッチン・バー”である。アフリカンからジャパニーズの“SUSHI”もメニューに並んでいて、ランチにはもってこいのスポットである。
<伝統的野外バーベキュー> 南アフリカ人も含め総じてアフリカンは陽気だが、彼らが最も楽しんでいるのが伝統的な「ブラーイブレイス(Braai)」という野外バーベキューではなかろうか。週末料理の定番であり、サファリのロッジでは豪快にコリアンダーの香りのするソーセージ=ブルーボスやラムやポークの燻製、ビーフにチキンがこんがりと焼かれ、食を通してコミュニケーションがはかられる。私もサファリのロッジで体験したが、肉を焼くオレンジ色の炎の向こうの暗闇から低く小さく聞こえてくる野生動物の啼き声がBGMとなり、非日常の食事シーンを演出してくれる。まさに、南アフリカならではのダイナミミズムだ。 コンフェデレーションズ杯準決勝で、南アフリカがブラジルに挑んだ試合前、ヨハネスブルグのスポーツカフェ『ズーレイク・スポーツクラブ』でもブラーイを楽しませてもらった。見知らぬ南ア人と肉を通して盛り上がり、熱気ムンムンの空間は実にパワフルで、アフリカのエネルギーを感じさせられた。
<南アのワインをあなどることなかれ> 食べるばかりが南アの食文化ではない。 とりわけ、私がこの国に惹かれる大きな理由の一つにワインの質の高さがある。飲んべえの恥を晒すようで恐縮だが、アルコールならなんでもいける口で、南アのワインの味を知ってからは生意気にも「なんでもかんでも」とはいかなくなった気がする。こんな逸話にもそそのかされたのかもしれない。 ナポレオンが失脚し、セントヘレナ島に流されたのは御存知のことかと思うが、この島はケープタウンの沖合に位置し、彼は流刑後もここで贅のかぎりを尽くしていたという。が、ワインを楽しむことができないのが不満で、かといってフランスから運ぶにしても当時の輸送手段では赤道を超えると質は低下し、手にした時はもうとても飲める代物ではなくなっている。ナポレオンのストレスはたまる一方だったが、すでにケープタウンの南では温暖な地中海性気候を利用し、ワイン造りが本格化していたのだ。それが南アフリカ最古のワイナリー、グルート・コンスタンシア村だった。本国からのワイン輸送を諦めたナポレオンは、やむなくこの村の白の甘めを口にすることで自分を納得させようとしたが、あなどることなかれ、これを口にした彼は瞬時に虜と化し、毎日欠かさず飲み続け、優雅なワイン生活を堪能したというのだ。南アはブドウの栽培に適した土地柄、多くの品種に恵まれ、ブドウをブレンドして製造するだけでなく、ほとんどを単体で製造し、世界を探してもここでしか栽培できないブドウによるワインもある。ワイン通の方は御存知だろうが、念のために『Pinotage』ですので機会があれば御賞味あれ。 振り返れば、南ア滞在中はワイン漬けの毎日だった気がする。 「ナント、贅沢な!」って? ちょっと待って下さい。美味いからだけでなく、同じ品質ならばフランスワインの価格の3分の1で楽しむことができるということを覚えておいて下さい。 |
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